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COLUMN

こたつとおばあちゃんとローソファ

文:水嶋 美和

我が家にこたつがやってきたのは私が中学生に上がってからなので、私にとってのこたつの原体験は父の故郷・新潟の家にある。

毎年、お正月はここで過ごすのが幼い頃からの我が家の恒例で、朝起きて寝る直前までこたつ中心に過ごし、こたつとセットになっているおばあちゃんと、 これまたセットになっているみかんをむきながら、喋るでも喋らないでもなくのんびり時間を過ごした。

日本海沿いにあるこの家は、冬は特に毎夜嵐の如く潮風が窓を叩き、小学生だった私はいつか家がドリフのコントのようにバタバタと崩れてしまうのではないかと布団の中で怯えていた。 朝、こたつでおばあちゃんがテレビを見ているのを確認するとホッとした。その頃はよく雪も降った。とはいえ新潟でも南の方にあるこの地域は中途半端な積雪量で、 雪だるまは作っている間に氷のかたまりとなり、やりきれない気持ちでおばあちゃんの待つこたつへ戻ったりもした。

あの頃は親戚みんなであの家に集まっていたけれど、私含む当時の子供たちが大人になるにつれ、そんなお正月の恒例もなくなってきた。 でも冬になるとあの新潟の凍れる気候とこたつとの寒暖差が無性に恋しくなる。おばあちゃんがいるこたつは私にとっての「HOME」なんだと、歳を重ねるほどに実感している。

私にはもう一人おばあちゃんがいる。

ローソファとこたつのコラム、こたつとおばあちゃんとローソファ

母の実家は九州と沖縄の間、奄美群島の珊瑚礁で出来た島で、夏にもなると海がエメラルドグリーンできらめく「ザ・南の島」にある。が、冬は島風でそれなりに寒い。 とはいえ、私が暮らす大阪の冬よりは格段に暖かい。こたつは気まぐれに出したり出さなかったりしているそうだ。そんな南国に暮らすおばあちゃんが、これまた気まぐれにこのお正月、我が家へやってきた。

やはりこちらの寒さは厳しいらしく、来てからというもののおばあちゃんはこたつとセットになってしまい、さらにセットになったみかんをむいてテレビを見ている。 ムム、既視感…でもどこか新潟とは違うモダンな仕上がりになっているのは、ここにあるのが座布団ではなくローソファだからだろう。 「はあ、こんなにいい正月、ばあは初めて」とうっとりしてくれるのは嬉しいけれど、座り心地がいいからといって朝の「行ってらっしゃい」と晩の「おかえり」が全く同じ姿勢なのも心配だ。 「みかん切れたから」「餅つきやってるよ」「ああっ、石焼き芋のメロディーが!」と、それらしい理由を付けて散歩に連れ出している。

まあでも、おばあちゃんのうっとり顔が見れただけでもローソファを買った甲斐はあったかな。南国ではこたつを楽しむ事も出来ないし。 新潟のおばあちゃんも今頃こたつかなあ、元気かなあ…なんて考えながらうとうとこたつに吸い込まれていく私もまた、おばあちゃんの始まりにいるのであった。